病院の中庭です。春には一面タンポポの花が咲きます。当医局が「お花畑」状態という意味ではありません。念のため。

2011年1月8日土曜日

心理治療を学ぶ

        精神科指定医研修のために今の病院に赴任したのが3年前になるが、発達障がい児者の心の問題を考えている時に、この分野でのオピニオン・リーダーである杉山登志郎先生の文章(発達:2008・10)に出会った。

        「遺伝子によって蓄えられた情報は、環境によって発現の仕方が異なる」「発達障がいの適応を不良にするものは情緒的な問題であり、それを引き起こすのは心理的な外傷体験(トラウマ)である」「発達障がい臨床において、成長の途中で蓄えられてしまったトラウマの治療を積極的に行っていく必要がある」と書かれていた。

        なるほど確かにそうだと腑に落ちた私は、以来、トラウマ治療について積極的に学び始めた。そう決心すると不思議なくらいチャンスが次々と訪れ、「認知行動療法」「EMDR(眼球運動による記憶の脱感作と再処理)」「SE(ソマティック・イクスペリエンス)」「臨床催眠療法(ヒプノティックセラピー)」「催眠療法(ヒプノセラピー)」などを学ぶことができた。

        何事も初めは教えられたことを教えられた通りに実践してみることが大切である。そうすると、それぞれの技法の予想もしない効果や失敗に何度も驚かされることになる。技法の違いがあってもトラウマ治療に底通する技術やマインドに気がつくようになり、ある程度実践して自信がもてるようになるまでは試行錯誤の連続である。

        医師は教科書からの知識以上に患者さんの病気や人間から学ぶことができる。トラウマ治療に限ったことではないが、患者さんの病気を診立て治療する際に、患者から教科書には書かれていないさまざまなことを教えてもらい気づかせてもらい学ばせてもらえる。

        トラウマというのは誰の心にも必ずあるものであり、それほど人間の心というのは奥が深い。日常は忘れていたり、なかなか思い出せなかったり、自分では思い出せもしないトラウマが潜在している。

        心理治療を学ぶ中で、それぞれの技法を通じて講師の先生より自分のトラウマの治療を受ける機会に恵まれ、その癒しも経験できる。そうやってトラウマやトラウマ治療に対しての感受性を磨いていくことになる。心理治療には興味や素質も必要だが、それ以上に練習や経験がものをいう世界である。

        SE治療では「1度の練習で3回は失敗しなさい。失敗から学びなさい」と言われ、催眠療法では「上手な人は練習を何度も繰り返した人、失敗を何度も繰り返して学んだ人」と言われ、ヒプノセラピーでは「失敗だと思うことはあっても失敗はない」と言われた。

        それらの言葉に勇気づけられながら、教えられたことを守りつつ、失敗を恐れずに、いまだほとんど手のつけられていない発達障がい児者のトラウマ治療に向けて努力を重ねている。

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