病院の中庭です。春には一面タンポポの花が咲きます。当医局が「お花畑」状態という意味ではありません。念のため。

2016年10月23日日曜日

神経発達症の人のための人間関係マニュアル10(L.カナーの成功例04)

ブログ管理担当のまさぞうです。

今日の基準からすると非常に重症の自閉症でありながら,
専門的援助なしで良好な社会適応を果たした
L.カナーの12症例のうち,第4例を紹介します。

症例4:クラレンス・B

クラレンス・Bは1940年6月15日生まれ。ジョンズ・ホプキンス病院の初診日は1945年5月31日(4歳時)。初診時,彼が2年前から通っていた保育所の職員は次のように語った。

 クラレンスは不器用で,背が高く,痩せています。保育所にはいつも喜んで通っているようですが,緊張が強く,特定の行動を繰り返す傾向が顕著です。環境変化に抵抗し,一つのことに集中して周囲の状況に気づかないことが多いです。彼の奇妙な行動(反応)は,知能が低いというよりも性格の問題のように思われます。クラレンスは文字,言葉,時計,絵に興味を示しています。彼は保育所に来てもまっすぐ教室に入ることはほとんどなく,ホールで立ち止まって時計を眺めたり,噴水式水飲み器(drinking fountain)の音を聴いたりして,なかなか先に進めません。この種のこだわり行動はいったん始まると,何日も何週間も毎日繰り返されます。クラレンスは他の子供達にはまったく興味がないようですが,子供たちの名札には強い興味関心を示します。2年前に保育所に入ってきた時,彼はほとんどしゃべれず,時々本の中の絵についてその名前を言おうとしたものの,その言葉はわれわれ職員にはほとんど理解不能でした。今ではクラレンスははっきりと話せます。ただ何か質問されても,それに答えるより,オウム返しに質問を繰り返すことが多いですね。

クラレンスの妊娠,出産時の経過は正常。運動機能の発達には問題はなかった。初語は2歳時だが,発音は不良。顕著な反響言語(オウム返し)が認められた。母親によると「クラレンスは抱っこされるのがあまり好きではなく,場所・名前・出来事・物語に関して非常に優れた記憶力を持っていた」という。

 小児科的診察では,クラレンスは身体的にはまったく健康であることが示された。64ヶ月時のビネー式知能検査で,精神年齢は59ヶ月。読解力テストでは小学校3年生相当の課題に合格した。

 クラレンスは家族と自宅で生活し,公立学校に通った。ジョンズ・ホプキンス病院受診後は心理学者の定期的なフォローアップを受け,病院に発達の状況が報告された。両親は1951年(11歳時)に次のように語った。「クラレンスはかなりよく適応しています。時には正常な子と同じように見えることもあり,対人関係も大きく進歩しました」クラレンスは沢山の本を読み,話し方もいくらか改善したが,同級生の会話に加わるのは難しかった。特定のテーマへの熱中がみられ,そのテーマは火山病気突然死破壊へと順番に変わっていった。両親は一時期兄妹(同胞)間の競争心が強すぎることを心配していた。1954年(14歳時)に中学2年生を優秀な成績(A's and B's)で修了した後,クラレンスは特別教育で有名なデヴルー学校(Devereux School)の夏期キャンプに参加して,よい評価を得た。彼は自分が周囲の仲間たちに受け入れられているかを気にかけるようになり,「対人関係に継続的に大きな努力を払うようになった」という。

 クラレンスは1958年(18歳時)の6月に優秀な成績で高校を卒業した。両親と夏を過ごした後,イリノイ州の大学に入学。そこを1962年(22歳時)に学位(B.A.)を得て卒業した。大学在学中には1人の女性と一時期「社会化(socialized)した」(交際した)という。その後奨学金を得てマサチューセッツ州の大学に進んだが,孤独感に悩まされ,学位論文は帰郷して書くことになった。こうして経済学の修士号を取得した後,クラレンスは出身州の大学で会計学を学んだ。その後彼は州政府の都市計画局に就職すると,都市計画について学ぶことにした。そしてその分野で修士論文を書くまでには至らなかったものの,それ以外の全ての修士の要件を満たすまで勉強したのである。

 クラレンスは管理職としての業務をうまくこなせず,1970年(30歳)の10月に退職することになった。1年間は新聞配達の仕事をして過ごした後,ようやく彼はその高等教育に見合う仕事,つまり年収7500ドル(1971〜1973年は1ドル=308円)の会計士の仕事に就き,現在(1972年32歳時)まで働いている。クラレンスは自分でアパートの部屋を購入し,生活上特に問題はない。強迫的に人づきあい(social contacts)を求める傾向があるが,社会性のレベルは「対人関係は不器用だが,表面的には適応している」といったところである。彼は困った状況になると,「僕は何か変なことしてない?(What  am I doing wrong?)」と周囲の人に尋ねる。彼は一時期ある女性と交際したものの,約9ヶ月後に別れることになった。自分は結婚すべきだが,「真剣でもない女性に無駄にお金を使いたくない」と語っている。クラレンスは車を運転するのが好きで,鉄道の時刻表収集を趣味にしている。

 クラレンスの姉妹の1人は教育学の修士号を持っており,別の姉妹は美術史学の修士号を持っている。彼女たちは2人とも結婚していて,そのうち1人には4人の子供がいる。クラレンスはこの子供たちと遊ぶのが好きで,「クラレンスが床に寝そべると,子供たちは彼の上で這いまわるんです」とのことである。

0 件のコメント:

コメントを投稿